怪奇読物・シネラマ島のなぞ

「盲獣村」其ノ三 奇形談義 「ところで先生。僕は今日、こんなものを手に入れましてね」 そう言って新聞記者・船越茂が黒い革鞄から取り出したのは、ある一枚のDVDであった。それを見た探偵と少年助手は、目を丸くしながら互いに顔を見合わせた。「アッ。そ…

[rakuten:neowing-r:10094068:detail]「盲獣村」其ノ二 二人の出遭い さて諸君。探偵小説というものの性質に通暁せらるる読書家の諸君は、物語中において名探偵と賞揚される人物が具備する、「名探偵」たりうる最大にして唯一の条件について、恐らく既に(も…

[rakuten:book:11683403:detail] 「盲獣村」其ノ一 カフェー・けもの部屋 船越茂は二十五才の独身の青年で、父は藝術映画の作り手として世界に名を馳せた映画監督、船越浩市であった。船越の作品はそのポスト・モダンな作風で一世を風靡し、海外での評価は今…

牢獄蔵からの脱出

探偵は垂直に一尺ほど跳び上がり、そのまま着地し、何事もなかったかのように「それでだね」と話を続けた。「僕は今まで、こういった監禁状態に陥ったことがない。しかし脱出法を僕は知っている。なぜだと思うかね。そう、わが生業は映画探偵! 特に好きなジ…

奇妙な七ツ道具

「無論さ。この“シネマ探偵七ツ道具”を使えばね!」 自信に満ちた笑みを浮かべる探偵は、一体どこに隠していたのであろうか、いつの間にか小さなアタッシェ・ケースを持っていた。「ヤ、この中に七ツ道具が入っているのですね。さすが探偵さんだ」「ははは、…

名探偵囚わる!

「それであのう、早速ですが、僕ら四人でグループ交際しませんか?」 この世に怪奇は数あれど、これほど怪奇な男女交際のありようもそう多くはないであろう。二人で一体にして不可分なシャム双子と映画探偵と鉄仮面怪人とのグループ交際、しかもその提案のな…

ペット吹きの恋

「あら、そちらの方は? どちら様かしら?」 シャム双子の一人が探偵の姿を認め、いぶかしげな顔つきで鉄仮面に尋ねた。もう一方の娘よりも肌が白く、神経質そうな印象を受ける。先ほど鉄仮面より聞き知った情報により、こちらが姉の雪子であるらしきことは…

牢獄の美女姉妹

さて。話の舞台は再び鉄仮面が監禁されている土蔵の中へと戻る。 探偵が土蔵の中へ乗り込む数週間前に出くわした「Y町人間シネラマ殺人事件」。しかし、なぜヒモロギ氏はこの事件を鉄仮面相手に仔細に語って聞かせたのであろうか。 「ヒモロギさん、たしかに…

いつわりの大団円

「先生、僕は先生を尊敬しています。尊敬しているからこそ、尾道から単身上京して、こうして住みこみで先生の助手をさせていただいているのです。しかし、一言だけ、一言だけいわせてください。そうやって、すぐになんでもかんでも殺人事件に仕立てあげてし…

シネラマ殺人事件

名探偵ヒモロギが目を覚ますと、そこには見慣れた天井と、心配そうに彼の顔を覗きこむ大林少年の顔があった。「アッ、先生! よかった、ようやくお気づきになられたんですね!」「やあ、大林くんじゃあないか。どうしたんだい、そんなさびしんぼうな顔をして…

狂気の1×2.88

「一座高こうはござりまするが、御免を被りまして、これより口上を申し上げ奉りまする。何れも様にはご機嫌うるわき態を拝し恐悦至極に存じ奉りまする」 赤テントの中はがらんとしていて、席には客もまばら、心なしか外気よりも冷え冷えとした空気が漂ってい…

探偵の自制心、内なる猟奇力に打ち負かされし事

名探偵ヒモロギはテントの前で立ち尽くしていた。いや、立ちすくんでいた、といったほうが正しいかもしれない。目の前に巨大な赤テントがあり、きっと中ではただならぬ怪しげな催しが行なわれているに相違なかった。元来、探偵などというものは知的好奇心の…

名探偵、赤テントの怪人に戦慄する事

さて、話は少しさかのぼり、名探偵ヒモロギ氏と幽囚の鉄仮面氏が出会う数週間前のこと。 ヒモロギ氏はいつものように昼ひなかから街を独歩していた。ヒモロギ氏は名探偵ではあったが、名探偵だからといって常に仕事があるというものでもない。そもそも彼は映…