『ウォッチメン』


 ほら僕らバカだからさ、映画の内容とか格調とかメッセージ性とか実はどうでもよくて、そんなもんよりも残酷な人体破壊描写とか見せてもらったほうがよっぽどテンションが上がるわけじゃないですか。
 でも僕らバカだからさ、バカというのは所作のいっさいがモタモタしていたりするわけじゃん。おで、こーでーかーらー、えーがーをーみーるーどー。みたいなかんじで話すのも遅いし。なんなんだろうね僕ら。きっと神経回路がステゴザウルスなみの鈍さなんだろうね。まばたきのようなな不随意運動すら超絶遅くてさ、ノドにモチを詰まらせた馬場さんみたいなこっけいなしかめっ面になりながらようやっと眼をしばたくわけなんだけど、目をつむっているうちに観たかった戦闘シーンが終わっちゃったりして、あでー? おでー、かなしいどー、みたいなことがよくあるんですよね。
 でもザック・スナイダー監督は僕らバカにも超やさしい人格者なので、これから残酷な人体破壊シーンが始まるよ、というときには該当シーンをスローにしたりコマ戻し連続再生したりしてバカが残酷シーンを見逃さないようにいつも気配りをしてくれるんだ。ほんとにやさしいな。おでたちはそんなザック先生が大すきだど! 

 というわけで、世界一やさしい残酷監督、はじけてザック大先生の最新作『ウォッチメン』を観てきましたよ。まったく予備知識がなかったため、みなさんと同様ぼくもてっきりスイス代表の超人がドイツ代表の超人にスリーパーホールドをかける話だと思っていたんですが、少し違ってました。超人が登場するところは合っていましたが、本作は「もしも、冷戦時代に本物のヒーローがいたら」というドリフ大爆笑ライクなアメリカ現代史ifストーリーでした。

 結論からいうと、すっごくよかった! ザック先生はこの作品で一皮むけたど! と思いましたね僕は。従来よりの持ち味であるシャープな映像美・人体破壊美はもちろん健在で、加えて今回の作品ではストーリーにも深みがあってなんだかすごく映画っぽい。いや、今までの『ドーン・オブ・ザ・デッド』や『300』も勿論りっぱな映画なんだけど、なんていうのかな、この作品以降はザック先生を紹介する際の枕詞として「ミュージック・ビデオやCMのディレクター出身」という説明がなされることがぐっと減るのではないだろうか。映像だけの人じゃないよこの人はもう。

 いろいろ語りたいことはあるんですが、夜中の零時をまわってバカはそろそろ寝る時間なので、本作に多数登場するヒーローのなかで僕が一番度肝を抜かれたスーパーヒーロー、DR.マンハッタンさんの行状を箇条書きで紹介するにとどめます。

・友だちの葬式とかのフォーマルな場所以外は基本フルチン(しかもモザイク処理なし)
ベトナム戦争に従軍し、巨大化してベトコンと戦った(BGMは「ワルキューレの騎行」!)
・何かの神さまだと思ったベトコンが土下座で降伏
・この人が気合いを入れてあばれると一瞬で200万人くらい死ぬ
・この人の存在が米ソ戦争の抑止力になっている
・この人の近くにいると放射能に被曝する疑惑
・悲しいことがあると火星に引きこもる
・ベッドシーンでは分裂する
・ブラジャーを見るたび新鮮な驚きを感じる

 改めて書きだしてみると、なんかこの人めちゃくちゃだな。にしても、巨大化したマンハッタンがバウワンコさまのごとくベトコンどもを蹴散らすシーンは本家『地獄の黙示録』を一瞬だけだがはるかな高度で超越していた気がする。いいもん観たなあ。おで、ザック先生にここまでついてきてほんとよかったど!