『レッドクリフ』

 いやもう三国志が大好きで大好きで。
 僕の場合、入り口はスーファミ版『三国志3』で、その後は吉川版『三国志』→横山版『三国志』→中国中央電視台版『三国志』→マンガ『蒼天航路』→オンラインゲーム『三国志大戦』といったかんじの三国遍歴。今も北方版三国志を読みながらDSで『三国志DS2』をプレイしています。

 それと僕はジョン・ウー監督が好きで好きで(特に好きなのは『男たちの挽歌』シリーズとか『ワイルド・ブリット』とかハリウッド進出前のものではありますが)。彼の作品の根底に流れる仁義イズム、男イズム、お百姓さんの作ったお米を大切にしようイズム、鳩が大好きでしかたがなイズム等々、こころふるえるイズム各位に心酔し続けており、ヒマさえあれば出先でipod touchに入れた『男たちの挽歌』を観て号泣する人生を送っているわけです。

 そんな折。大好きな『三国志』を題材に、大好きなジョン・ウー監督が映画を撮りました。その名も『レッドクリフ』。これはどういうことか。僕にとってどんくらいの事件であるか。

 三国志でわかりやすくたとえます。あのさ、たとえば僕が魏の曹操孟徳だったとするでしょ。ある日の昼下がりに曹操が、というか僕が、なみいる諸将を集めて軍議をしているわけ。烏丸族とかって最近ちょっとシャシャってね? あいつらマジありえねーっすわー。いっぺんシメといたほうがよくね? とかいって。そしたら突然地平の果てからすんごい砂塵を巻き上げて誰かがすごい勢いで駆けてくるのが楼閣から見えるわけ。おいなんだあれは。あの砂煙パねえな。マジでパねーっすわー。ちょっとちょっと夏侯惇、お前あれなんだと思う? ……あ、あんまし見えねえか。お前こないだ自分の目ん玉引きずり出して食っちゃったもんね。わるいわるい。じゃあ郭嘉。そのへんの引き出しにオペラグラスとか入ってない? ちょっと持ってきてよ。みたいなかんじで走り来る物体を確認すると、なんとそれは赤兎馬! 赤兎馬といえば「人中の呂布、馬中の赤兎」と称えられた最高日速1,000里/日のスーパークールな汗血馬。しかも見よ、ピーキーすぎて豪傑じゃねーと乗りこなせないと言われる赤兎馬にまたがっておるのはかの勇将・関羽雲長殿ではないか! 関羽殿といえば、有能な才を広く求めた曹操が最も欲した激レア逸材の一人であり、ついでにそろばんも発明したすごい人! そんな関羽殿と赤兎馬がこちらに笑顔で駆けて来て、「それがしを貴殿のチームにくわえてくだされー」みたいなことを叫んでおるぞ。ははは、善き哉善き哉。天下の趨勢、今ここにきわまれり!

 みたいなかんじ。そういうことなんですよ『レッド・クリフ』という映画は。僕にとって。なんというわかりやすいたとえだ。わかりやすすぎる。

 さっそく初日に観てきまして、たしかに面白かったんだけど、まあ、あまりに期待しすぎた感もあったかなあ。最大のマイナス要因は、やはり赤壁の戦い(水上戦)が始まる前に映画(PART1)が終わってしまうこと。あの原作を映画一本分にまとめるのは土台無理があるので、作り方としては大いに理解出来るんですが。まあ、これは言っても仕方がないことですかね。

 全体的にすごくよく出来ているし、長坂における蜀の諸将の鬼神のごとき活躍ぶりには心震えるし、過去の実写版『三国志』とは比べるべくもなく役者のルックス、戦争シーンの迫力ともに進化しています。しかし不幸なことに、中国を含めた世界の映画ファンに対して、日本の三国志ファンは常日頃よりマンガ・アニメ・ゲームでディープな三国志世界を体験し続けているため、本作の満足度に大きな開きが出てしまう気がします。

 たとえば、魏の武将は本作ではきわめてぞんざいに描かれています。というか、曹操以外誰が誰だかまったくわからない。横山版より見分けがつかぬ。むむむ。魏呉蜀の所属を問わず名のある諸将を徹底的に個性的なキャラクターとして描ききったマンガ『蒼天航路』なんかを読んだ後に観ると、やはりなんかこう、全体的にキャラの造形に物足りなさを感じてしまうのだなあ。孔明なんかも終始にやにやしているだけでキャラが弱いし。

 たとえば、戦闘シーンでは何かと奇抜な戦術や奇怪な陣形が登場したりして、見せ場には随所に工夫が凝らされています。観ていて面白いのですが、しかし僕らは『三国無双』シリーズでもっとはっちゃけた三国戦闘を体験済なので、なにやら不感症に陥っているらしく、あれでもまだまだ物足りないというか。無双シリーズのOPムービーなんて、奇抜すぎてもはや頭おかしいですもんね(以下のURL参照)。 
http://jp.youtube.com/watch?v=hDXW6SGUXs4
趙雲ひとりvs魏軍100万人くらい+曹丕

http://jp.youtube.com/watch?v=UZSF2cWe360&feature=related
凌統vs甘寧 仲間割れがドラゴンボール的バトルに発展してみんな迷惑

 とまあ、なんだかんだいったところで、映像化された三国志はやっぱり楽しいし、ジョン・ウー監督も相変わらず白ハト飛ばしまくりで大好きなので、PART2も絶対に観にいくわけなんですが。それにしても日本の三国志文化ははるか先を行き過ぎちゃってんな、とつくづく思った次第です。呂布が幼女化する話とか、4000年待ってあげても中国人には到達できない境地ですよね。ほんと自分が日本人であることを誇りに思うよ。