『ファンタズム』

ファンタズム プレミアム・エディション [DVD]


 ここんとこ物凄いペースで悪夢ばっかり見ています。昨晩なんか三本立てで悪夢鑑賞しちゃいましたよ。
 さーて、昨晩の悪夢さんは……「ヒモロギです。すっかり秋めいてまいりました。食欲の秋、読書の秋、芸術の秋などと言いますが、わたしはやっぱり悪夢の秋です。秋の夜長に覚めない悪夢。自分のネガティブな想像力との対峙は、私を心から疲弊させてくれます。さて昨晩は、「ヒモロギ、酒屋の前の自販機でジュースを買ったらプルタブが開いた状態で出てきたので店の人に文句を言ったら地下室に幽閉されて『パルプ・フィクション』的地獄折檻を受けて殺されたの巻」「ヒモロギ、大学の講義に出たら隣の席の男に執拗に鉛筆で横腹を刺されて穴ぼこにされたすえそこからストローを刺しこまれて体液を吸われて殺されたの巻」「ヒモロギ、山奥のドライブインでトイレ休憩したら実はそこはかつて病院だった廃屋で、なんかいろいろあったすえ悪意ある人々にとっつかまって人前に出れないフリークスに整形手術されちゃったでゴザル」の三本でお送りしました! ……というかんじです。毎晩あまりに怖くてやってらんねえのですが、まあ、僕は小説を書いたりすることもある人なので、毎晩三個ずつネタが増えると思ってがまんしてます。

 悪夢の映画といえば言わずもがなの『エルム街の悪夢』ですが、あれはやっぱり作り物の悪夢の世界であって、ほんとうの悪夢世界を思わせる映画といえば、たとえばそのひとつに『ファンタズム』などが挙げられるのではないかと思われます。

 
 本作の主人公は、自分の兄のストーキングが大好きというレアな趣味をもつ少年。葬式に参列した兄貴を絶賛ストーキング中、棺桶を人知れず運び去る長身の男「トールマン」を見つけてしまい……というかんじの話なのですが、話の構造がわやくちゃで、登場するアイテムもファンタジーっぽかったりSFぽかったりと統一性がなく、結局何がどうなったのかよくわからないうちに終わる不思議な作品です。監督のドン・コスカレリさんも、きっと毎晩三本立ての悪夢に悩まされたあげく、怖すぎてやってらんねえが、まあ、俺は映画とか作る人だし、これをネタに映画撮ってみっかな、みたいなノリで作った作品に違いありません。うーん、あやかりたいものです。僕に悪夢を見せている脳内の悪夢中枢にも、きっと毎日企画会議とかがあったりして、ディレクターをはじめスタッフ陣が集まってああでもないこうでもないと悪夢のネタ出しとかしていることと思うけれど、お金になりそうな悪夢を見せてくれたならば、スタッフ全員をザギンにつれていってシースー的なものを食わせてやるのもやぶさかではないぜ、と僕は肩にひっかけたセーターをなびかせつつ思うのであった。シースーでもいいし、もっと別のグーフー的なものでもいいよ。B3グーフー。

 あ、本作の見所はやはり「地獄のビーン・ボール」ですね。銀色の鉄球がブーンと飛んできて、シャキンと刃物が出てきたかと思うと標的の額に突き刺さって脳漿をぎゅるぎゅるえぐりとるという。マジかっこいいです。たったひとつのこの命、交通事故とか癌とかで死ぬくらいならこのビーン・ボールにざっくり仕留めて頂きたいものだなあ。