『新幹線大爆破』

新幹線大爆破

 二十年ぶりにディズニーランドへ遊びに行ったら、アトラクションから何から当時とはずいぶん様変わりしていて驚きましたよ。「キャプテンE.O」とかなくなっちゃってるしね。うちの相方もランドのほうは久しぶりなんつってチュロス片手に大はしゃぎでね。閉園時間まで遊び倒しました。しごく楽しかったよ。

 みたいなね。夢を見ましたゆうべ。ははは。わびしいぜ。でもまあいいか。「うちの相方がさ〜」なんつう傍目にムカつく人称を一度用いてみたかったことだし、夢が叶ってよかったよ。恋人や嫁と言わずに相方と呼び合う僕たちの、恋とか愛とかそういうステージはちょっと越えちゃって互いを補い成長しあう今の関係、ちょっとこれってどうよどうなのよ、みたいなね。ははは。相方だけにつっこんだりつっこまれたりでたいそう仲のおよろしいことでございますな。へっ。

 さて。僕の夢の中にだけ存在するレアなテーマパーク「東京ドリームディズニーランド」では、エレクトリカルパレードが存在しない代わりに、高倉健がビッグ・サンダー・マウンテンやウエスタンリバー鉄道に爆弾を仕掛けて破壊するというデストロイなイベントを毎晩実施しており、経費がかさんで大変だろうね、健さんも毎晩ごくろうさまだね、みたいなことを夢限定相方とチュロスを食べながら話しあったものでした。なので、今日は健さん主演の超大作パニックムービー『新幹線大爆破』の感想を書くぞ。

 ひかり109号博多行きに仕掛けられた爆弾には、新幹線の速度が時速80キロ以下になると起爆するというおもしろギミックが搭載されており、それを知った運転士の千葉真一はじめ国鉄職員一同がギョッとする、というのが大まかすぎるストーリー。『スピード』の元ネタは黒澤原案の『暴走機関車』とのことですが、本作からも多大な影響を受けていることでしょうね。

 われらが健さんは、爆弾をせっせと作ってせっせと取り付けせっせと逃げつつ乗客の安否を気遣う小まめな町工場の社長役。主演であり、人生の哀しみをずっしり背負ったしぶくてかっこいい役ではあるんだけど、なんかもうこの人の人生のしょっぱさのせいで、映画全体がパニックムービーらしからぬほどにしょっぱくなっちゃってねえ。

 詳細は忘れて果ててしまったけれど、『スピード』の犯人は世界をまたにかけた犯罪シンジケートとか、そういうかんじの犯罪界でブイブイ言わしてる連中だった気がする。そういうのってすごく景気がいいよね。それに、そんな連中がぶっ殺されたところでぜんぜん胸も痛まないよね。
 いっぽう健さんは世界どころか町の工場の貧乏社長さんである。景気がいいどころか、社員に給料も払えず工場はつぶれてしまうのである。奥さん子どもにも逃げられ、仲間は学生運動くずれとか売血のしすぎでフラフラになってる貧乏人しかいなくて、しょうがないから国鉄を脅して金をかすめ取ろうという、なんかもう悲しきダメ人間ばっかりなのである。高倉社長は日本の高度経済成長を縁の下で支えた町工場の技術を活かし、ハンドメイドな匠の技で特殊爆弾を作り上げるのである。……景気のいいパニック映画とおもいきや、健さんパートでは観ているこっちの姿勢がだんだんうつむき気味になってきます。新幹線パニックパートでは血が燃えたぎり背筋がピンと伸びるものの、健さんパートに転じダメな仲間がみじめに犬死にしていくのを見ると再びうつむき気味になる……といったかんじで、伸びたりうつむいたり伸びたりうつむいたり、背筋の屈伸運動には非常に適した映画です。パニック映画のハラハラ感と、負け犬ドラマのもやもや感を同時に味わいたい、なおかつ背筋もちょっと鍛えてみたいわ、そんな欲張りなあなたにこの映画はオススメです(そんな人はいない)!

 というか、今はじめて気づいたけれどこの映画は妙にアメリカン・ニューシネマっぽいなあ。このしょっぱさやラストシーンのアレなんかは、『俺たちに明日はない』とか『真夜中のカーボーイ』とか『イージー・ライダー』とか一連のアメリカン・ニューシネマ作品に通底するものがあるなあ。あ、だから僕はこの映画が好きだったのか。だから僕の夢に現れた健さんは、無力で無邪気な反体制の体現者として、アメリカ資本主義の象徴たるディズニーランド園内の鉄道施設を破壊してまわっていたのか。すげーな僕の深層心理。夢ってマジすげー。