『ダークナイト』


 僕のベストオブバットマンティム・バートン監督のダメ人間愛が炸裂しまくりの大名作『バットマン・リターンズ』であり、この評価は今後何十作バットマン映画が制作されようと変わらないと思いますが、本作はそれに次ぐくらいの面白さでした。アメリカで大ヒットしたというのもうなずけます。

 総論からお話しますと、バットマン映画の魅力は「どだい設定にムリがある」ということだと思います。そもそもバットマンの正体がアメリカ有数の大富豪という時点でおかしい。ぼくやきみやあなたがアメリカ有数の大富豪だったとして、なおかつ悪を憎んであまりあるからといって、自らバットスーツをまとってバットモービルを駆って直接悪人に鉄拳制裁を行使したりするだろうか。しないよね。そんなもん金持ち殺法百二芸のうちに入らぬ悪手中の悪手だよね。お金の力を使えばもっと簡単で楽チンな善行が400億通りくらい思いつくよね。しかしあえてバットスーツを着て出掛ける富豪の阿呆っぷりにこそ我々貧乏人は感動するのである。御坊茶魔が毎朝ロールスロイスで小学校に登校せずに、ミドリガメの背中に乗ってノコノコ通学するからこそ我々はおぼっちゃまくんとともだちんこ感覚を共有できるのである。それと同じようなものなのである。

 舞台となるゴッサムシティも、普通に考えて治安が悪すぎです。ヨハネスブルグより更に輪をかけて治安が悪い街に、なんであんなにセレブがいっぱい住んでいるんでしょうか。犯罪者はみんな心に傷持つメンヘラーばかりだし、セレブは殺されるためにあの街に住んでるようなマゾセレブだし、バットマンなんて生粋の大変態だし、街全体が巨大な隔離病棟としか思えない。ゴッサムシティは実は『かってに改蔵』でいうところの「とらうま町」のようなものなのではないかと僕はにらんでいるのですが、まあいくらにらんだところでDCコミックから僕に向けて回答があるわけでもなし、いいかげん目も疲れるので太平洋の遥かかなたを遠目でにらむ不毛なやぶにらみはこのへんにしておこうと思います。

 にらむといえば、本作のバットマンは敵の位置を補足する時に目がピカピカ光るので、なんか新種の西洋妖怪みたいでかっこよかった。ぶっ壊れたと思われたバットモービルからかっけーバイクがスパーンと飛び出てくるシーンもキン肉超人のオーバーボディみたいでかっこよかった。ゴードン警部補がなんかいろいろ頑張るあたりもよかったし、トゥー・フェイスが復讐鬼へとあっさり堕ちていくさまもよかったし、ジョーカーがとことん悪辣なところもすごくよかった。まあなんつうか、バットマンはいつまでもかっこいいオール変態大進撃映画であってくれればよいなあ。