『シッコ』

 医療に関わる仕事をしている関係で(本業の探偵だけでは食っていけないという悲しき現実)、マイケル・ムーアの新作だからというよりも、題材となっているアメリカの医療保険制度そのものに興味を持ち映画館に赴きました。

 マイケル・ムーア作品は多分に恣意的であり(というかそもそも恣意的でないドキュメンタリーなど存在するはずないのですが)、彼の作品を鑑賞する際は意図的に切り取られた一面的な映像ばかりに惑わされぬよう心がける必要があるとは言い条、「治療費を払えない老病人を寝間着のままタクシーに乗せ、手首のタグからは病院名を削り取り、ダウンタウンのホームレス一時避難所の前に捨てていく病院」の証拠映像なんてものを見せられてしまうと、問答無用で胸を締めつけられてしまいます。な、な、なんてこった。ゆるせぬ。わなわな。みたいなかんじで、けっきょく今回もまたムーア先生の掌の上。ムーア先生やっぱすげーよ! 構成もめちゃくちゃうめーし! 2時間超のドキュメンタリーを一瞬たりとも飽きさせず見せる手腕はマジハンパねー! ってかスゲー! やつは神だわ!

 単純な僕は今回もまんまと術中にかかってしまったので、アメリカの皆保険制度の実現をことあるごとに妨害してきた保険会社の連中と、製薬会社に買収された政治家連中を街頭で見かけたらチョップを三発ほど浴びせた後「超人百二芸」奥義・打穴三点崩しを叩き込んで息の根を止めてやろうと固く心に誓いました。TPOによっては命奪崩壊拳、百戦百勝脚などを使うかもしれませんけどもね。とにかく。

 しかし、アメリカという国には羨ましいと思えるような要素が一つとしてないなあ。皆保険制度も日本の場合は一応あるだけまだマシだし、アニメも向こうじゃディズニーやピクサーなんつうすっとろい制作会社しかなく、マンガなんかもマーブルヒーロー全員集めてみたところで本邦の至宝のごとき魅惑のキャラクター群にはかなうべくもなく、ゲームもFPS以外はこれといって別段どうということもなく、飯はまずい、車はデカい、テキサスは殺人鬼だらけ、高校にはプロムパーティーの伝統がある等々、うらやましいと思える要素はまったくもって皆無。世界一の超大国を自称する国がそんなことでよいのでしょうか。こんなにも誇るべきものが何もない張子の虎っぷり、タイガーメイドオブハリィークォ、っぷりは流石にちょっと問題ではないのだろうか。 
 日本はアメリカをもう少し哀れんであげて、後進国アメリカに京都アニメーション荒木飛呂彦先生と名越稔洋さんあたりをてきとうに見繕ってしばらく貸与してあげることによって、せめて文化面だけでももう少し底上げを図ったほうが良いと思うな。そのくらいしてあげないと、アメリカがあまりにも不憫すぎるじゃありませんか。頼みますローゼン閣下