『スキヤキ・ウエスタン ジャンゴ』

 平家の落人伝説が真実味を帯びた話として一躍脚光を浴び、平和な寒村に荒くれどもがラッシュしてきて大フィーバー! 清盛をボスと仰ぐ平家グループと義経率いる源氏グループの二大勢力がにらみ合いを続ける村に謎の凄腕ガンマンがやってきて……という『用心棒』ライクなストーリーを主軸として、独自のノリで紡ぎ出される魅惑の三池ワールド! 源氏の人たちは白い服、平家の人たちは赤いお召しをまとっているので僕らみたいなボンクラでも人間関係がよくわかる親切設計だ! あとはドンパチばっかだからとってもわかりやすくておっもしろいんだぜ!

 ファーストシーンからしクエンティン・タランティーノvs香取慎吾という豪華な取り合わせ。ドル箱スターの慎吾くんを瞬殺したQTは、そこらを這ってたヘビの喉をかっさばいて取り出した丸呑み卵をお椀に素早く割り、腰元のお箸ホルダーからスチャッと抜いたマイお箸でシャカシャカとかき混ぜ、野外でスキヤキを作り、煮えたお肉を卵にからませて食う。そんなファーストシーンです。すばらしすぎます。ザッツ天才の仕事。
 しかし三池監督は、今回QTを使って遊びすぎだと思いました。すき焼きに焼き豆腐ではなく絹ごし豆腐を入れたといって激怒しちゃぶ台をひっくり返すQT、「息子にアニメキャラの名前を付けて喜ぶ」という劇中までもアニオタ設定のQT、「アッ、ソウ」「サヨナラダケガー、ジンセイダー」などというてきとうな日本語をしゃべらさせられるQT等々、QTはどんだけ三池監督の玩具なんだ。QTをこんだけいじくり回せる監督は、この世に三池監督と、あとは盟友ロドリゲス監督くらいのものでしょう。さすがは世界のミイケです。世界はミイケにゾッコンです。この映画にぐだぐだ文句をつけている国内の映画関係者各位は、世界のQTを心酔させるような仕事をしてからそのような発言をしてほしいものです。

 QT演じるピリンゴの他にもきわどいキャラが目白押しでこれまた素晴らしい。突如オカマ化する弁慶のキャラクターは「悪意あるホモのデフォルメを演じさせたら並ぶ者なし」といわれる石橋貴明の面目躍如。桃井かおりはガンアクションの剛毅なかっこよさもさることながら、それとは対照的に「豆腐のことでQTに怒られる」という個人的に大好きなシークエンスをしおらしく熱演! ゴラム風自問自答劇による心的葛藤を繰り返す保安官は「人格が二つあるので命も二個ある」という、言われてみれば納得できるような気もする不死身設定。平八少年は「ショックなことが起こるたび五感を一つずつ失っていく」というおもしろナイーブ設定な子なのですが、エンディングのナレーションによればこの少年が後年イタリアに渡ってジャンゴ(マカロニウエスタン映画『続・荒野の用心棒(原題:ジャンゴ)』の主人公)になるんだそうで……っておいおい、そもそも人種がぜんぜん違うじゃないか! だがしかし、このてきとうなノリがいとおしい!
 かくのごとき魅惑のキャラクター群のなかで僕が最も好きなのは佐藤浩市演じる清盛。極悪だけどバカで小心者、という落差あるキャラが全編で光っています。バカなので突然「ヘンリー」と改名したり、小心者なので敵からガトリングガンで狙われると失神して落馬したり、極悪なので仲間全員を楯にする一列並びのジェンカ的隊列を組んで敵陣に突っ込んだりします。『新撰組!』で佐藤浩市さんの演じた芹沢鴨のバカ悪ぶりも好きでしたが、今回のバカ悪っぷりは芹沢をはるかに凌駕しています。佐藤さんにはこのまま「バカ悪」というジャンルを究めていって頂きたいものです。

 いちいち色んなところが面白すぎて、書きたいことがあとレポート用紙4兆枚くらいあるこの映画なのですが、既にまとまりがなくなってきているのでこのへんで。評論家の意見や一部ネットの書き込みなどを散見するとあまり評価が芳しくないのが悲しいところですが、僕はだんぜん好きですよ。


参考 『続・荒野の用心棒』感想
http://d.hatena.ne.jp/oriontarou/20070702