『忘八武士道』


 池袋新文芸坐でオールナイトを観てきました。石井輝男監督の三周忌ということで『江戸川乱歩全集 恐怖畸形人間』『直撃!地獄拳 大逆転』『忘八武士道』『猟奇女犯罪史』の四本立て。なんだかオールナイトで『恐怖畸形人間』がかかるたび新文芸坐に足を運んでいるような気がします。もしも僕が逃走潜伏中の国家的テロリストあるいは幕府転覆のため闇を跳梁しその足跡を容易に残さない流浪の維新志士とかだったとした場合、名画座で『恐怖畸形人間』をかけさえすれば僕は必ずそこに姿を現し、エンディングの「お母さーん!」のシーンでは必ず腹をよじって爆笑しているであろうため、官憲や幕府の狗は僕の捕縛が楽チンでよいだろうなあと思いました。


 初見だった『忘八武士道』の感想でも書きます。
 『ポルノ時代劇 忘八武士道』というタイトルが大仰な書き文字でドジャーンと出ただけで早速場内を笑わせるという、そんなしょっぱなのツカミからして凄すぎる映画です。ポルノ時代劇! 開始1秒で笑える映画なんてそうそうあるもんじゃあございません。
 「忘八」とは仁・義・礼・智・忠・信・孝・梯という人間が人間らしく生きるためのスキル全てを忘れたおバカさんという意味で、「忘八者」とは吉原の廓で遊女を残虐に管理し売春によって得た莫大な利権をわがものとするロクデナシ集団のことを指します。主人公は故・丹波哲郎大先生演じる人斬り・明日死能(すごい名前だ)。「生きるも地獄、死ぬもまた地獄」が座右の銘という死能先生、オープニングで同心どもをバッサバッサと切り刻みまくってから、「あーもう俺、人を斬るのに飽きちゃった」みたいなことを言って唐突に橋から身投げするという『さよなら絶望先生』みたいな展開が凄い。あ、ちなみにアニメ版『絶望先生』は第四話のOPが乱歩的かつ若干石井輝男的で最高ですね。安易な“萌え”の席巻によりしばし停滞を余儀なくされていた日本のアニメシーンも、いよいよ面白い方向に前進を再開しつつあるのだなあ。

 閑話休題。さて。やたら自分勝手な自殺を遂げようとした死能先生は忘八者に助けられ、以後は吉原遊郭の外で春をひさぐ私娼、及びバックの組織関係者を斬って斬って斬りまくる風俗専門人斬りとして名を馳せます。そして、トゲトゲのメリケンサックを装備した同心や、モーニングスターのような兇悪な武器を操るエロ忍者(戦闘中やたら女性の胸をさわる)といった敵どもと死闘を繰り広げてゆくわけですが、特に注目したいのは時に味方となり時に敵となる五人の女忘八。この人たちは、なんでそんなにすぐ素っ裸になるのか。死能先生が炎に包まれた! 危ない! そんな時皆さんふつうどうします? 水の貯まった防火桶のようなものが近くにあるんだから、そう、それで水をかければいいじゃない。火を消すためにはまず水じゃない。でも、ひし美ゆり子ら演じる五人の女忘八はちがう。やおら地面に横たわり、五人で列をなしてコロコロ転がることによって炎を強引にもみ消すのです。そして真っ黒焦げになった着物を自ら切り裂き素っ裸になり、「まだ身体が火照っているわ」みたいなことをほざき、傍にあった防火桶を使ってエロい仕草で水浴びをします。そして裸のままトコトコお家に帰っていくという社会常識の欠如ぶり(その帰り道で忍者に襲われる)。もひとつ例を挙げると、異国の修道女を拷問する場面もすごくおかしい。拷問されている修道女が服を剥かれているというのはわかるが、拷問している女忘八まですっ裸というのはどういう了見なのか。拷問するほうが先に裸になってどうするの!? ポルノ時代劇おそるべしッ!

 ちなみに丹波哲郎大先生演じる明日死能は後年の同監督作『地獄』にもカメオ出演しています。『地獄』とは、地獄に落ちた麻原・林・宮崎といった昭和〜平成の凶悪犯を鬼たちが地獄の責め苦で断罪するという教育映画なのですが、ラストシーンになぜか突然明日死能が脈絡なく登場し、そしてなぜか突然脈絡なく地獄の鬼を斬り殺します。えっ? えっ? 鬼を殺してどうすんですか丹波先生? えっ? と思っているうちに映画が終わりキツネにつままれた気分になること必定。面白いので必見です(あくまで僕基準)。
 とまあ、僕はそういう話をもっと沢山皆さんとしたいので、皆さんもぜひ石井輝男作品を観てください。ちなみに僕はこれからフジテレビの27時間テレビ反省会に乗り込み、来年の27時間テレビは「石井輝男監督作品27時間一挙放映! 激殺!27時間猟奇テレビ大逆転」にしましょう、という最強の企画案をブチあげてこようと思います。まったく。なにが「なまか」だ。サムすぎる。今年の企画考えた奴、脳みそがちょっと畸形なんじゃないの。