『ツールボックス・マーダー』

 新婚夫婦の越してきたレトロなアパートは、実は黒魔術にハマった変態が独自の魔術理論に基づいて設計したアメリカ版「三角屋敷」だった! アパート内部の隠し部屋を暗躍し、次々と住人達を毒牙にかけてゆく殺人鬼! なんと恐ろしい! しかし、それはそれとして、住人たちの居住空間延べ床面積よりも広いんじゃないかと思われるほどゆったりした平米の隠し部屋って一体!? アパートの管理人さんも、いいかげん建物の大きさに対する住人たちの部屋の不当な狭さに気づいてやってください! といったかんじのハートフル不動産ホラー。後半が面白かったです。

 本作の監督はトビー・フーパーフーパー先生といえば、かつてチェーンソーの正しい使い方を知らなかったばかりに、あれを殺人のための道具と勘違いし、遂には名作『悪魔のいけにえ』を作ってしまったという悪魔のうっかりさんです。フーパー先生はあれから二十年以上たった今日でも電ノコの正しい使い方を理解していなかったようで、本作でも回転ノコギリで人体切断を試みます。うっかりしてるぜ。

 更に本作では、フーパー先生は大工さんの職能も正しく理解していなかったことが発覚。大工さんや修理工のよく使う道具……電動ドリル・釘打ち機・巨大ペンチ・ハンマー、それらの大工道具を活用しながら人体破壊のかぎりを尽くします。ダメだ! このおじさんにはNHKの教育番組『はたらくひとたち』を見せるなどして、大工や修理工や食肉業者やガソリンスタンド従業員や保安官や遊園地運営者の正しいお仕事内容と、彼らがけっして殺人をなりわいとしているわけではない、という事実をきちんと教えてあげないとダメだ! でもこのおじさんに限っては、小二向けの『はたらくひとたち』を見せても内容をきちんと理解せず、その後ケンちゃんとフムフム(犬)を殺して壁のフックにかけて飾る映画とか作りそうだからダメだ! もうこの人は、本当にダメだ! まったくもってダメだ!(ほめ言葉)

 僕はとにかくこの人の作る映画の、イントロなし・ドンカマなしの殺人鬼登場シーンが大好きなのです。わっと出てわっと殺す。あとに残るのは静寂ばかり。これはもう芸術だね! もののあはれを感じるね!