『300』

 ザック・スナイダーッ!

 さて、人間には三大欲求というものがありますな。食欲、性欲、そしてたった一騎で大平原を埋め尽くす大軍勢の真っ只中に切り込んで殺して殺して殺しまくりたい欲。90年代後半までは「睡眠欲」などというチンケな欲望が三大欲求の一に数えられていたこともあったそうですが、近年の学会では「“睡眠欲”を三大欲求に含めるのは現実的ではない」「べつに寝たいと思って寝たことなんかない」「“たった一騎で大平原を埋め尽くす大軍勢の真っ只中に切り込んで殺して殺して殺しまくりたい欲”が人類の根源的な欲求であることを認めないと、コーエーの『無双』シリーズが売れる理由を説明できない」といった論拠により、今日では“たった一騎で大平原を埋め尽くす大軍勢の真っ只中に切り込んで殺して殺して殺しまくりたい欲”を含めた三欲を基本三大欲求として扱うことが定説となっています。

 で。そんな基本三大欲求のひとつ、“たった一騎で大平原を埋め尽くす大軍勢の真っ只中に切り込んで殺して殺して殺しまくりたい欲”を満たしてくれる神映画が『300』。作ったのは新約『ドーン・オブ・ザ・デッド』でおなじみの殺戮映画職人ザック・スナイダーッ!

 300人のスパルタ兵が100万人のペルシア軍と切り結ぶという、ただそれだけの話なのですけれど、その作りがあまりに人間の欲望に忠実。原作版ゲッターチームみたいに凶暴なスパルタ兵×300が100万のペルシア兵を情け容赦なく虐殺しまくる様といったら! スッキリ! 胸にかかっていたモヤモヤは晴れわたり、僕の心の中の伊藤四朗の頭にトゲトゲのボールが20個くらい振りそそぐ! 
 個人的に興奮したのはペルシア軍が次々に繰り出す世界ビックリ畸形歩兵軍団。フリークス好きの僕には感涙モノの畸形ぞろい。せむし男に巨人症、その上ペルシア王クセルクセスの親衛隊は『鉄拳』の吉光みたいな外観になってるし、オール畸形大進撃だうわーい! そんなすばらしい畸形兵たちを、やはり石川賢マンガみたいに凶暴なスパルタ兵たちはバッタバッタと斬り殺し刺し殺し殴り殺しドロップキック殺し、なんつうか、障害者に対するいたわりの心ゼロ! 障害者だからといって決して特別扱いしないというザック先生の人間賛歌精神が染み入るぜ! またもやスッキリ! 僕の心の中の伊藤四朗の頭に、放射能で巨大化・硬質化した直径80センチの突然変異バフンウニが400個くらい振りそそぐ!

 ペルシア軍は完全に万国ビックリショー状態になっていて、版図の広さに任せて世界中から集めまくった超弩級殺戮生物たちをけしかけたりもするんですが、そこはさすがダイナミックプロ的にはっちゃけたスパルタ兵たち。ゼネバス帝国軍ZOIDSレッドホーンみたいな殺人サイすら槍投げ一閃大瞬殺! ゾウも殺す! オオカミも殺す! 動くものはなんだって殺しちゃうかんね俺たち! 動物愛護精神のかけらもないんだもんね俺たち! これまたスッキリ! 僕の心の中の伊藤四朗の頭にガンダムハンマーが8tぶんくらい降り注ぐ!

 『300』の話じたいはべつにどうということはなく、たとえるなら「凶暴な『白虎隊』」とか「『七人の侍』凶暴版」とか、まあだいたいそんなかんじなんですが、見るべきはストーリーなどではなく、ザック先生の人体破壊映像へのこだわりと、フリークス愛の爆発ぶりと、ペルシア軍の変態ぶりと、300vs100万という勝てぬ戦に精を出す前田慶次郎利益精神。
 本作を観る前は欲求不満で、「あー、誰でもいいから4万人くらい殺してーなー。しかもモーニングスターとかで!」などと物騒なことを思い描いていた犯罪者予備軍の僕も、鑑賞後はすっかり憑き物が落ちたような温和な表情となり、おうちで正座しながらにこにこ『マリア様がみてる仮面のアクトレス―』を朗読したり、「♪どっきりどっきりDON DON!! 不思議なチカラがわいたら どーしよ?」などと『おジャ魔女どれみ』の歌を口ずさみながら千代紙で鶴を折るなどの穏健的生活。いつかまた心がすさんでしまうようなことがあればこの映画を観よう。