『SPIRIT』

 中国カンフー業界の伝説的英雄・霍元甲が戦ったり調子に乗ったり反省したり毒を飲まされたりする映画。ジェット・リー演じる霍元甲がかっこいいのはもちろんのこと、敵キャラ日本武道家・田中安野を演じた中村獅童のかっこよさたるや筆舌につくしがたく、かつて香港映画・中国映画でこれほどまでにかっこよく描かれた日本人がいたであろうかと思えるくらい。
 中村獅童ってあんなにかっこいい生き物だったんだ、と強く感銘を受けたので、僕も中村獅童みたいなかっこいい武道家を目指します。というか、中村獅童を目指すと行き着くルートは歌舞伎役者か俳優でした。まちがった。進むべき道を見つけたとたん見失った。

 ちまたで話題になっているらしい主題歌差し替え問題ですが、たしかにヒドいと思いました。エンドロールに流れる歌が、ジェイ・チョウの「霍元甲」から日本人女性の歌うなぞの陳腐ロックに差し替えられていて、こういう行為はやはりよろしくない。たとえば『ロード・オブ・ザ・リング』のエンディングに配給会社の勝手な裁量で「踊るポンポコリン」を流されたら、誰だって怒りますよね。僕も怒るし、旅の仲間も怒るし、帰還した王も怒る。二つの塔は無機物なのでたぶん怒らないけど、怒ることができたらきっと怒るんじゃないかな。

 この恥決定を指示した日本の配給会社と、劇中で霍元甲に毒を盛った国益第一日本人外交官の姿が見事に重なります。せっかく中国側が劇中で日本の武道精神をリスペクトしてくれているのに、当の日本側でそれを台無しにしてしまっている。配給会社というのは、配給する映画の内容を知らずとも仕事を遂行できるみたいで。なんかラクそうでいいですね。