『妖怪大戦争』(張出横綱)

妖怪大戦争 (角川文庫)

妖怪大戦争 (角川文庫)

 この映画には僕の好きなものばかりがぎゅうぎゅうに詰められているので参りました。妖怪、三池監督、水木しげる荒俣宏、『帝都物語』、京極夏彦栗山千明、『稲生物怪録』等々。大好きなものばかりが各地の名産産地直送お歳暮ギフトセットのごとく詰め込まれていたとあっちゃあ、楽しめないはずがありません。大すきだうわーい!


 まず、荒俣・京極プロデュースなわけですから、妖怪考証は完璧。河童の人形起源説とか小豆の持つ聖性とか無説明のままストーリーに放り込んであったりして、パンピーにはそのへんちょっとキツかろうけれど、僕ら妖怪オタにとっての常識が常識としてきちんと描かれていることに好感。……え? あー、いや、けっこういますよ、妖怪オタなんて。今日び珍しくないっすよ。陰陽師ブームや京極効果のおかげで今や女の子の妖怪オタも多いですしね。あの角曲がる女の子ー、妖怪オタっぽくはー、ないですかー。妖怪オタっぽいー、妖怪オタっぽいー、とにかくなんでも妖怪オタっぽいー。なんつったりして、はは、これは妖怪アニメ『ドロロンえん魔くん』ED曲「妖怪にご用心」の替え歌です。妖怪オタはここでどっとウケてるはず。あとねえ、こういうのもあるよ。♪妖怪オタはー、うじゃうじゃいるぞー、ここにも、そこにも、あそこにもっ、ワオッ! なんつったりして。ははは。そうそう、これは90年代版『悪魔くん』のOPね。(妖怪オタ、ここで笑う)あそーれ、バランガバランガ!
 飛ばしすぎまして閑話休題、邦画史上初めて妖怪のプロによって作られた妖怪映画の誕生を、まずはとにかく手放しで祝福しようではないですか(前作における妖怪考証は、水木しげるがデザインした油すましをそうと知らずに無断で造形化してしまった、といったレベル)。僕なんか映画が終わった後、スタンディングオベーションの代わりに手洗い鬼のポーズで拍手しまくっちゃいましたよ。自分の座席と前席の背もたれの上に立って、手洗い鬼の例のあのポーズで。(妖怪オタ、ここでまた笑う)


 ファミリー映画のくせして三池スピリットがきちんと沈殿しているのも好印象。首都に加藤保徳ひきいる機怪軍団が来襲した時の絶体絶命危機的状況を、たった一本のゴボウ天を使って表現してみせた三池演出はすばらしすぎます。この人ちょっと天才すぎますよね。
 あるいは三池エロティシズム。ファミリー映画なのにそこかしこに確信犯的エロスが漂い、見終わるころには妖怪を観にきたんだか川姫こと高橋真唯ちゃんの太ももを観にきたんだかわからくなってしまうという怪現象さえ起こりました。栗山千明さんも舌をレロレロ出したりよだれをトロトロたらしたりしてなんかもうすごいエロ妖怪。
 妖怪とエロスは元来関係が深いものでして、大雑把に定義すれば妖怪とは道具や現象を擬人化したもの。つまり今ならアフガニスたんやビスケたんのような萌えキャラに相当するわけです。「妖怪=怪物」という凡庸かつ誤った撮り方をせず、あえて「萌え」る撮り方をした三池監督を、妖怪オタかつ三池ファンの僕はますますリスペクト。三池監督はすごい! えらい! かっこいい! そしてエロい!


 あとは豪華なキャスティング陣。豪華っつっても、みんな特殊メイクのせいで誰が誰だかわかんなくなっちゃってんですが。妖怪役の俳優さんがみんなゴテゴテした特殊メイクを施していたのに、ただ一人顔を青く塗っただけのメイクで「油すまし」を演じていた竹中直人さんはなんかすごいと思いました。ほとんど素じゃないか。妖怪の役なんだから、もうちょっとメイクしてあげないと竹中さんに失礼だよね。

 とても好きな映画なので、ふつうに感想を書いちゃいました。