『逆境ナイン』(前頭)

野球部の存続をかけて甲子園を目指す全力学園野球部キャプテン不屈闘志の前に立ちはだかるさまざな逆境、逆境、また逆境! そして迎えた地区予選決勝、9回表0対112! なんかもうすごい逆境! さわやか野球まんが『タッチ』なら、1万2000人いる1万2000ツ子の兄貴が上から順に総計1万2000回死んでゆく、くらいの凶事に匹敵するであろう前代未聞の大逆境。男、不屈闘志はどう乗り越える!? といったかんじのハートフル逆境ストーリー。かなり面白かったです。

この映画はねー、予告でちらっと観て凄くサムそうな映画だなあ、と思ったんですよ。CGもショボい、というかヘタウマなかんじで鼻についたし、島本マンガのテンションを実写で表現されても、うわー、みたいなかんじになるに決まっているので、これはちょっとやばいだろうと。

しかしまあそれはそれ。僕は原作本はもちろんのこと島本和彦名言集まで買い揃える島本ファンであり、それにくわえて僕がヘラクレス大敬愛している藤岡弘、隊長も校長先生役で出演していることもあって、これはもはや義務、観にいくしかあるまい! しかも、鑑賞後に監督・俳優の舞台挨拶が用意されている新宿ジョイシネマ13時の回をな! ……などと、燃えさかる炎を身にまとい、意気揚々と自宅を出発したわけです。たとえ映画自体がサムくても、オレが、オレの情熱の炎が映画館のサムい空気を溶かしつくしてやる! MSゴシック体30ポイントの力強さでそう叫びながら! そしたら家を出てすぐに実家の母親から電話がかかってきて、「あんたの好きなチキンライスをクール宅急便で送って、もうそろそろ着く頃だから楽しみに待ってなさい」などという。おっ、おふくろっ! オレは……オレは、チキンライスが好物だったのかっ! しっ……知らなかった! い、いや……、仮に好物だからといって、クール宅急便で送るものなのかっ、チキンライスをっ!? しかもこのタイミングでっ!? ……ふっ……ふははははっ! これからやって来るクロネコヤマト宅急便の配送員がその手にたずさえているであろう発泡スチロール製の箱のなかに収まっているチキンライスは、いわば母親の愛情のこもったチキンライスだ。なんて、なんてあたたかい料理なんだっ! それがたとえクール宅急便で-5℃に保冷されていたとしてもだっ! しかし、今日から上映が始まる『逆境ナイン』はどうだ! ……サムい! きっとこのうえなく冷え切った映画にちがいない! しかし、だからこそだ! そんな映画だからこそ、オレのようなファンがいのいちばんに駆けつけて、作品にほとばしる熱気を伝導させてやるべきじゃあないのかっ! そうだ、いわばオレたちファンは作品の親なんだ! 生まれたばかりの、いや、まだ生まれてもいないタマゴのような作品を愛情こめて暖めてあげる親が、この作品には必要なんだ! そしてそれはオレの役目だ! ニワトリとタマゴどちらが先か? ……人は時々そんな疑問を口にするが、この作品に関しては、まちがいなくニワトリが先なんだ! ニワトリが先になくてはならないんだ! 待ってろタマゴよ! ニワトリがいま行くぜーっ! そして許せおふくろよ、男にはどうしても行かねばならぬ時がある! そしてそれが、今なんだ! 特太ゴシック80ポイントの書体で島本調に叫びながら総武線快速に乗り込む僕。そして母親のチキンライスの行方、杳として知れず!

けっきょく舞台挨拶の回は観れませんで、次の回に観ました。そしたらなんかすげえ面白いでやんの。サムい箇所も多少はあったけど、それをおぎなってあまりある可笑しさ、馬鹿馬鹿しさ。監督・俳優・演出、どのあたりの功績なのかはよくわかりませんが、たぶん全部でしょう。『逆境ナイン』を面白く映画化してくれてどうもありがとう!



追伸
藤岡隊長のボケシーンなんかもう、僕あ腹抱えて笑っちゃいましたもんね。やっぱり隊長は反則です。


追伸Ⅱ
地方を舞台にした映画におけるジャスコネタというのは、もはやすっかり定着した感がありますが、ジャスコ的にはどうなんでしょうか。おいしかったりするのかなあ。


追伸Ⅲ
チキンライスの入ったクール宅急便、けっきょく午後9時近くに受け取りました。僕の好物だともっぱらウワサのチキンライスが冷えているのはいいんですが、それと一緒に実家に届いた僕宛の郵便物を詰め込むのはやめてほしいところ。WOWOWのプログラムガイドが超冷え冷えになっていたりするのはどうなのか。いくら冷やしてもらったところで、そもそもこっちの環境では、WOWOWを観ることは出来ないんだ、母さん。