『アイデン&ティティ』(幕下)
- 出版社/メーカー: 東北新社
- 発売日: 2004/08/27
- メディア: DVD
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80年代、バンドブーム華やかなりし頃、大衆に迎合したポップなロックナンバー「悪魔とドライブ」でメジャーデビューを果たしたロックバンドSPEED WAY。しかしその後の方針が定まらずパッとしないでいるうちにバンドブームは終焉を迎え、後に残ったのは大人の金儲けのために食い散らかされたロックの魂死屍累々。いつのまにかロックとは程遠いところに立っていた主人公は深い悲しみと、そして引き裂かれたアイデンティティの痛みによってボブ・ディラン似のスタンドを発現させる……といったかんじの話です、はしょっていえばね。
僕は大槻ケンヂさんのエッセイ読破達成率100%をほこる日本で唯一の水子霊ですから、オーケン氏が何度も何度も書いて、もはや書き尽くした感のあるバンドブーム当時の狂乱と潮が引くような熱の冷めかたの早さ、金儲け主義の連中に消費されてしまったジャパニーズロックの哀切、カネとロックの醜悪な関係、といったものについてある程度の知識とシンパシーは備えており、そうした前提もあってか本作はすごく興味を持って観ることができました。僕もシマウマと同様『ロッカーズ』は嫌いですが、「日本のロック史」にとりたてて興味のない人はきっと『ロッカーズ』のほうが面白く感じるでしょうね。すべてにおいて迎合してるもんね、陣内監督は。なんでこんな男がバトル・ロッカーズのボーカルだったんだろう。ムカつく。マジ祟りてー。
ストーリーもさることながら、劇中歌はどれもよかったし、麻生久美子さんは綺麗だったし、大杉漣さんは七代祟りたくなるほどムカつくインタビュアー役がハマってたし、全体的にみてとてもいい映画だと思いました。ただ主人公の中島、こいつときたら話が進むにつれてどんどん説教臭くなり、最後のライブはほとんど説教で終わるという説教強盗も裸足で逃げ出す説教ライブになってしまうのはちょっとなあ、という気がしましたけど。そもそもこの若造、アイデンティティがどうのとか言って悩みまくってますけど、僕から言わせりゃちっちぇーちっちぇー。お前ら生きてるだけで丸儲けだろ、と言いたくなります。僕の悩みなんかさらに深いですもんね。アイデンティティーうんぬん以前に、まず生まれてねっつーの。自分の居場所があるとかないとか言う前に、まず肉体と戸籍がねっつーの。まあ僕もね、若い頃はこれでけっこう悩んだんですよ。そんな時期にヒモロギさんと出会って、新橋の飲み屋で飲んで、そこで彼に言われたんですよ。「ちっちぇーちっちぇー」って。「自我があるだけで丸儲けだよ」と。この言葉ね、実は僕けっこうじーんときちゃって。そっか、そうだよなあ、みたいな。たとえ肉体もアイデンティティーもなくたって、こうして新橋でやきとりをつまみながら酒を飲んでいることを自覚できるだけでもかなりの丸儲けだよなあ、なんて思ったりして。ほろりと涙がにじんだりもした新橋の夜でした。
でもその後がヒドかった。酔いの回ったヒモロギさんは「キミは昭和後期に生まれた(?)水子霊だからまだマシなんだよ! 今でこそ水子霊はトップクラスの凶悪怨霊として下にも置かぬ扱いだけど、つい数十年前までは流産した胎児に霊性を認める考え方自体が存在しなかったんだから、水子は水子霊として自我を得ることすらできなかったんだぞ! 自分の幸福に気づかない奴に幸福になる資格なんかないんだ!」とかなんとか、ろれつのまわらない口調でえらそうな説教をえんえんと垂れ続け、最後には言うに事欠いて「お前なんかなー、戦後の成金坊主の金儲けのために捏造された資本主義の産物だコノヤロー」とかくだまきやがるもんだから、あとはもう殴り合いのケンカですよ。新橋のやきとり屋で。あー、今思い出しても腹が立つ。あんな奴の代打映画評なんか引き受けなきゃよかった。
ま、結論としては「金儲け主義から生まれて悪いか」みたいなかんじで。たとえば僕の自我。映画の主張と真逆です。