『用心棒』(前頭)

用心棒 [DVD]

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 二大やくざ勢力の抗争によってすっかり荒廃した宿場町にやってきた謎の素浪人・桑畑三十郎(仮名)は、両勢力に自分を売り込むことで宿場町のパワーバランスを狂わせ、悪人どもを一網打尽にしたうえで自分も小銭を稼ぐ、というミラクルな用心棒大作戦を立案し、めし屋のおやじを驚かす! といったかんじのハートフル棺桶屋大フィーバーストーリー。ひきこまれるストーリー展開もさることながら、怪力自慢だが間抜けでお人よしの亥之吉、ニヒルな拳銃使い卯之助、「中国の野人スクープ映像」に出てくるおっさんなみに超巨大なタッパの羅生門網五郎と、多彩な敵キャラが物語に華を添えます。『あずみ』に出てきそうな連中ばかり。というか『あずみ』そのものじゃん。黒澤監督はきっと『あずみ』の愛読者にちがいない。ついでにいえば、PS2の『侍』なんかもガッツリとプレイしているにちがいない。こりゃもうまちがいないっすよ。

 しかしながらというか当然というか、けっきょく一番光っているのは言わずもがなの三船敏郎。なんだこの生き物は。どっからどう見たって本物のサムライなんですけど。大昔の絶滅種であるはずのサムライ目サムライ科の生物がフィルムのなかで快活に動きまわっててなんかすごく希少なんですけど。殺陣とかもう殺る気マンマンなんですけど。斬り殺す時のオノマトペはどう考えたって「ズバッ」とかじゃなくて「ボカッ」「ボコッ」のイメージなんですけど。前門にハラペコの超巨大ベンガルトラがいて、後門にポン刀構えた三船敏郎がいたとしたら、迷わず前門正面突破策を選ぶこと間違いなしなんですけど。どけーっ、トラこのどけっ、いっけぇー! うおおぉぉーっ! 

 というわけで、僕の今年のシネ初めはこの『用心棒』でした。こいつあ春から縁起がいいや。年明け一発目にどんな映画を観るかということは、この一年を占う意味で非常に大きな意味を持ちます。思えば昨年は元旦そうそう『ギャング・オブ・ニューヨーク』なんつうちゅうとはんぱな作品を観てしまったせいで、実生活においてもひじょうにちゅうとはんぱな一年を過ごしてしまったものでした。おのれスコセッシ、僕の一年をどうしてくれる。そこへいくと『用心棒』はまったくもって素晴らしく、今年の僕の運気もハンパなくソリッドなものになることでしょう。いえーいやったぜ2005年! いつも心に三船敏郎! 僕ももうすぐ三十郎! 今年でやっとこ二十八郎!