『男たちの挽歌』(関脇)

 三年間の服役生活を終え出所後は真面目に生きようとするホー、兄のホーを許すことが出来ない刑事のキット、ホーと固い友情で結ばれた真の主役“マークwith二丁拳銃”。この三人を軸として織りなされる男くさくて熱くて熱くて熱い魂のドラマをキミは観たか!? 僕は観た! 傑作だ! 男泣き! 三年待って巻き返せ!
 なによりマーク役のチョウ・ユンファがかっこよすぎです。このかっこよさは病的です。いや、もはや病気です。大病です。医者もサジを投げます。投げたサジは速すぎて目視は不可能です。相手チームの誰も打つことが出来ません。ゲームセットです。完全試合です。来年の年棒予想は大幅アップです。メジャーも視野に入ります。ストーブリーグも目を離せません。そんなことをしているうちにチョウ・ユンファのかっこよさは大気中に拡散し、冬場の乾燥した空気のせいで感染はますます拡大します。予防法はありません。マッチ棒をつまようじのようにくわえる、手を使わずにグラスの酒を飲み干す、指を口に入れて鳴らす、そんなささいな動作の一挙一動をマネせずにはいられないマークのかっこよさに、現代医療はもはやなす術もありません。そして僕は自分が自分でなにを言っているのかよくわからなくなってきています。語るほどに前後不覚。そのくらいかっこいい!
 いまだにペ・ヨンジュンごときを「様」づけで称揚する厚顔無恥な下郎趣味がまかり通っている時世ですが、言わせてもらえばナンセンス。本当にかっこいいアジア人俳優が誰なのか、自分で映画をよっくと観比べて確かめてみろってんだ。やっぱヨン様よりもユン様だよね! 同意しない連中は全員僕の敵とみなし、三分後に総攻撃を開始します。これは警告です。脅しではありません。いくぜ怒りの二丁拳銃!

 僕ぁなにから書いていいかわからなくなって結局なにも書けなくなってしまうくらいにこの映画が大好きなんですが、そこまで好きなのはやっぱりこの映画が異常に熱いから。作り手の気持ちがギャンギャンにこもりまくってグツグツに煮立っているのがジャンジャカ伝わってくるのがわかるからです。本作の英語タイトルは『A Better Tomorrow』、つまり「よりよい明日」。そして「失われたものを取り戻す」「三年待ったんだ、巻き返してやる!」……劇中でホーやマークが叫ぶそんな台詞には、作る映画すべてが閑古鳥のためにホサれて台湾送りにされ、三年もの間事務職に従事していたというジョン・ウー監督の実体験が大きく重なります。三年の閑職づとめの後、ジョン・ウー監督の復帰第一作となったのが本作とのこと。一人の男の執念と意地と夢がギチギチと詰めこまれた映画を見せられて心が動かされないはずがありません。ジョン・ウー版『ロッキー』といえる本作、結果ジョン・ウー先輩は「巻き返す」ことに成功したのであります。すばらしい、男子たるものかくありたい! 「勝ち組」「負け組」という言葉が昨今よく使われますが、僕がこの映画から、そしてジョン・ウー先輩から学んだことは「負け組」などという貧弱な組など存在しないということ。一度負けた者たちは巻き返す権利を獲得し、勝ちあがった者たちは巻き返されるリスクを負う。そう、よりよい明日を夢見るかぎり「負け組」になんかならないのだ! 千里の道もタクシー運転手から! うおー、いけー!
 
 これを書いている今日は12月24日なのですが、イブの夜によりにもよってド濃い男映画『男たちの挽歌』の映画評を書いている僕っていったい……いや、今はなにも言うまい。巻き返してやる!