『A.I.』(幕下)

A.I. [DVD]

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 ママの息子が蘇生しちゃったせいで身代わりロボは行き場を失い捨てられる。捨てられロボの運命やいかに、ママをたずねて三千里、といったかんじのハートフル捨てロボストーリー。原案はキューブリック、脚本・監督は遺志を継いだスピルバーグ、といったびみょうな分業体制が映画ファンの怒りに触れちゃった鬼子的作品。「駄作」という評価はもはやゆるぐことなく、ひじょうに風当たりが厳しい作品です。個人的には、そんなに悪い映画でもないんじゃないの、という気がするんですけどねえ。キューブリックの名前が大きすぎるせいで、ちょっとかわいそうなことになってしまった作品です。

 部分的に見ればいろいろと面白いんですよ。オスメントくんの演技力が白眉ってるのもすごいし、オスメントくん演じる少年ロボット・デイヴィットが「母親」に向ける愛情、これが純度100%まじりっけなしの紅花サラダオイルみたいなかんじで感動するどころかむしろ怖い。その怖さが良いです。「未来の更に未来」のラストシーンも、あれは余計だという人もいるけれど、僕はべつにいいじゃんと思いました。宇宙人細いし。なにしろ僕はテディ・ベア型ロボットがトコトコ歩いて、野太い声でなんかエラそうなことを喋っているのを見るだけでうわーおもしれーなーと思える人間なので、きっと他の有識者よりも映画を観る視点のレベルが低いんでしょうね。

 本作の中で僕がいちばん面白いと思ったのはジュード・ロウ演じる「ジゴロ・ロボット」の存在。ジゴロでロボット! ジゴロでロボット! うわーい、オトコの夢が二乗だよー! このジゴロ・ロボとテディ・ベアロボとオスメンロボが連れ立って旅に出るわけですが、このパーティー構成なんかもすばらしいと思います。『ドラクエⅢ』でいったら商人+商人+遊び人みたいなかんじで全くパーティーバランスが取れていないの。でも旅に出んの。他にともだちいないから。そこがいいよね。この三人の道行き道中のシーンはとても好きです。勇者とか戦士とか出てこなくてほんとよかったよ。

 しかし、惜しむべくはジュード・ロウの出番が少なすぎる、ということでしょう。というか、ジュード・ロウがどういったテクニックやギミックでもってジゴロ業を営んでいるのか詳細に見せて欲しかったです。えっ、あそこからあんなものが、あっ、今なんかギュンギュンすごい音がしてるけど、ええっ、あれがあんなふうに可動するわけ、うわっ、しかも回転!? みたいなかんじで。ロバート・ロドリゲス監督だったらストーリーそっちのけでジゴロ・ロボットのおもしろギミックにこだわりまくったに違いないのになあ(もちろん股間リボルバーはアタッチメントとして登場)。

『シネマ坊主』の中で松本人志さんも同じようなことを言っていましたっけ。「ガキとおかんのマザコン話はもうええから、この男のベッドシーンを見せろ!」みたいな。まったく同感。「キューブリックならそこを一番やりたかったのでは。スピルバーグキューブリックの遺志を間違って受け継いでないか?」とも。まったくもって大同感。さすが松本さんです。「近い将来、ああいうセックスロボットは本当に出現するでしょうね。まずはAIBOのバター犬からでしょう」なんてことも。それはどうでしょう松本さん。なにもバター犬から始めなくても。

 蛇足ながら、芸能人の映画評論で面白いのは松本さんと大槻ケンヂさん、そして関根勤さんの書いたものだと思います。松本さんの映画評は自身がコントの台本を手がけることもあってか、映画のプロットや状況設定に対するツッコミがすごく的確な気がします。大槻さんは誰も批評しないような二束三文映画にスポットを当ててくれるので読むと世界が狭い方向に拡がります。関根さんは、ほんとうに映画が好きなんだろうなあ。文章中に映画愛があふれています。文章じたいもすごく面白いしオススメです。みなさんも、こんなてきとうなサイトを読んでいるヒマがあるのなら、もっと他に読むべき映画評があるんじゃないかと思いますよ。他人事ながらけっこう心配です。