(6)探偵団結成

 ヒモロギ小十郎にかわり事件を解決する「少年映画探偵団」を結成する……なんてすてきな思いつきでしょう。大林君は自分のアイデアにすっかり夢中になり、生活能力のないヒモロギ先生に昼ごはんを食べさせるのも忘れて熱心に探偵団結成の準備をすすめました。そうして、なんとその日のうちに団員のスカウト活動まで始めたのです。
「攻めに四人、守りに三人。合計七人は団員がほしいので、団長のぼくのほか、あと六人は団員がほしいところです」
「なーる。『七人の侍』ならぬ、七人の少年映画探偵ということだね。しかし、きみは義務教育期間だというのに学校に籍をおかぬちんぴらな身の上。同世代の友だちなど一人もいないだろうに、団員のあてなんてあるのかい?」
「先生、いまはなにごともネットの時代です。ぼくはネットまわりの交友関係を活かし、FacebookmixiTwitter2ちゃんねるでそれぞれ一人ずつ団員をつのり、ひとまず四人の団員スカウトに成功しました」
「ほう、さすが大林君。ネット世代の申し子だね。やんや、やんや」
「その四人はすでにここに呼んであるので、これから先生にご紹介します。さあみんな、部屋に入ってきて、あこがれのヒモロギ先生にごあいさつしたまえ」
 大林君がドアのむこう側にむかって声をかけると、コンコンというノックの音がして、それから緊張のおももちの少年が四人、ぞろぞろと入ってきました。四人の子どもたちは、大林団長にうながされ、じゅんばんに自己紹介を始めました。

「はじめまして。ぼく、淀川壮二っていいます!」
「彼はぼくより年上の中学一年生ですが、団長のぼくには敬語を使い絶対ふくじゅうするという条件で入団をみとめました。先生やぼくにおとらず映画の知識が豊富で、英語もぺらぺらです。外人への聞き込みや、字幕のない外国映画を観るときなどに重宝するでしょう」
「なるほど。それはすばらしくグローバルな人材だ。さてはFacebookで見つけてきたな。淀川君、これからよろしく頼むよ」
 そう言って、名探偵は淀川君と固い握手を交わしました。

「こんにちは、ぼくは水野正一です!」
「彼は背の小さい小柄な少年ですが、これでも小学六年生です。『シベ超』とあだ名されるくらいかけっこが速くて、おまけにちゃめで、あいきょうもので友だちも多いのです。その顔の広さはきっと捜査の役に立つでしょう」
「なるほど、しょうらい立派なリア充になりそうな好男子だね。さてはmixiで見つけてきたな。水野君、これからよろしく頼むよ」
 そう言って、名探偵は水野君のいがぐり頭をくりくりとなでました。

「あっちはジョン・ウェイン? こっちは僕? なんちゃって、ぼくは馬場一郎です」
「この冗談ずきな彼氏は小学五年生で、自前のカメラや盗聴機を駆使してあやしい人間の身辺調査などにかつやくしてくれることでしょう。おふざけ二等兵なので、ジョーカーというあだ名で呼ぼうと思います」
「なるほど。情報収集はお手のものというわけか。さてはTwitterで見つけてきたな。気に入った、家にきて妹を《検閲不許可》していいぞ」
 そう言って、名探偵とジョーカー君は互いにかかとをそろえ敬礼をしました。

「あ……どうも。えへへ」
「いつもしまりのない顔でにやにや笑っているこのでかぶつは、六年生のほほえみデブくんです。なんの役にも立たなそうですが、そのうち天才的なピストルの才能に開眼するような気がしたので、ダメもとで確変の可能性に賭けてみました」
「なるほど。とりあえずその、人をイラっとさせるほほえみを消すよう早く顔面に伝えてくれたまえ。どうせあれだろ、おまえ2ちゃんねらーだろ。くれぐれも僕の障害物にはさわるなよ」
 そう言って、名探偵はほほえみデブくんがかくし持っていたジェリードーナツをとりあげ、むりやり彼の口に押し込みました。

「いやあ、しかし、よかった。よかった。まじでよかった。君たちゆうかんな少年映画探偵団しょくんが、僕の代わりに映画事件を解決してくれれば、僕にとってこんなに楽ちんなことはないよ。さすがは大林君だ。少年映画探偵団、イエスだね!」
「いやあ、先生にそんなにほめてもらえるなんて、ぼく光栄です」
「そうだ、諸君。探偵団の初仕事として、みなで大林君のばんざいをとなえようじゃないか」
 なるたけ仕事をひとにまかせ、自分は映画とゲームに囲まれてあそび暮らしたいとつねづね考えているヒモロギ先生は、まったくもって超ごきげんでした。
「大林君、ばんざあーい」
「大林団長、ばんざあーい」
 開化アパートをゆるがすばかりの快活なばんざいの声は、いつまでも、いつまでも中野の晴れた青空にこだまするのでした。