『片腕マシンガール』


 忍法ヤクザに弟を殺され片腕をもがれた女子高生が、失った腕の代わりに自動車修理工お手製のマシンガンを装備して復讐の炎を燃やすピンキー&バイオレンスムービー。この粗筋にまったくグッとこない人間とは、僕は一生かかっても、弥勒菩薩が下生する五十六億七千万年後のリミットぎりぎりまで時を費やしたとしても理解しあえない自信があるッ!

 日本では8月公開予定なのですが、僕はあと2ヶ月も待ちきれなかったので、お隣のドクに借りたデロリアンを飛ばして観てきちゃいました。いやあ、面白かった! 1.21ジゴワットくらい面白かった! なけなしのプルトニウムを燃料に使った甲斐があったぜ。

 本作のキーワード、というかこれを撮った井口監督のキーワードは「過剰」であることだと思います。まず、全編に横溢するB級残酷成分、いわゆるタランティーノ分がすごすぎる。片腕カンフー、片脚ゴーゴーダンサーときて、そして今回の片腕ニッポン女子高生。日本的エログロの極致。映画史にまた新たな一ページ。片腕+女子高生+マシンガン=エログロ∞。もはやE=mc2なみの鉄板公式。これは企画段階で既に勝ちが見えていましたね。

 そして物量も過剰。吹き出る血の量がハンパではありません。まじパねえです。『椿三十郎』のラストバトルを500回撮ってもまだあまるくらいの血糊をフルタイム大盤振る舞い。アイスランドの間欠泉みたくピューピュー血しぶきを飛ばしては頭の悪い僕たちを視覚的に楽しませてくれます。なんという無駄な浪費!
 しかし、かといって消費削減を目指し日々努力している昨今のエコ社会の考えと対立しているわけではなく、首を切り落とされた死体から噴き出すミスト状の血液をリンス代わりに使用する、殺した女子高生を勿体ないから性のはけ口に使用するなど、限りある資源を大切にするリサイクル精神も忘れてはおりません。残酷だけど地球には優しい!

 それと、海外へのサービス精神も過剰。本作は日本で作られた映画ではありますが、資本はアメリカ。つまりアメリカでの公開を念頭において作られたため、監督はアメリカの人たちにこの映画を通じて祖国ニッポンのことをもっとよく知ってもらうことにしました。その結果、
「恐怖! 主婦が女子高生の腕をさくさくテンプラに揚げる!」
「ショック! 詰めた指をシャリに乗せてヤクザ・スシ完成!」
「びっくり! 日本の学校には忍者部がある(ジャージ着用)!」
「羽ばたけJAPANのテクノロジー! 町工場では殺戮兵器を開発中!」
などといった、お決まりのアイコンを海外に向けてわかりやすく伝えることに余念がありません。なんという過剰な親切心と愛国心

 海外公開がメインだというのに、国内のぼんくら各位に対する心配りも忘れていないのが監督の男前なところ。劇中に登場する武装遺族集団「スーパー遺族」は、本邦の男子全員が例外なく大好きであるところの男前名作映画『狂い咲きサンダーロード』へのオマージュだったりしてもう最高です。組長の使用する首刈り暗器も『片腕カンフー対空飛ぶギロチン』のギロチン、『キル・ビル』のゴーゴーボール、『闘将!拉麺男』の断頭瓶といったぼんくら暗器史の系譜に連なるもの。思わず笑みがこぼれてしまうぼんくら薀蓄が満載だ!

 というわけでこの映画、非常に面白いのですが、同時に非常に残酷であるため、昨今の安易な表現規制の風潮のあおりを食らってしまわないか非常に心配です。そんなことにならぬよう、デロリアンで過去にタイムスリップしてアキバの阿呆を後ろから蹴り飛ばし例の犯罪を未然に防ぐ計画をドクと一緒に練っているのですが、悲しいことにタイムトラベルに必要な燃料(プルトニウム)が足りません。もし余分なプルトニウムを持ってる人がいたら、僕かドクまですぐに連絡を。いくぜ9番。いっしょに表現の自由とぼんくらの幸福を護ろうぜ!