『パンズ・ラビリンス』

 舞台はスペイン内戦。夢見がちな少女オフェリアの義父はフランクかつカジュアルに人間全般をぶっ殺す残酷大尉。妊娠中の母は泣きべそばっかりかきながら病の床。そんなしょっぱい人生真っ只中のある晩、オフェリアはキモい蟲妖精に誘われ迷宮の入り口へとたどり着く。そこには迷宮の番人・牧神パンがいて、魔法王国の姫の生まれ変わりである彼女に王国へ戻るための「三つの試練」を課すのだが……といったかんじのダーカー・ザン・ダークファンタジー。僕はもっとこう、迷宮を奥へ奥へと突き進む『不思議のダンジョン』的な話かと思ったんですが、実際は現実世界の陰惨なシーンが大部分を占める、わりと地に足の着いたリアルなお話でした。っつーか暗すぎるよ! あのエンディングはハッピーエンドともバッドエンドとも解釈できるけど、やっぱ普通に考えたら超バッドエンドだよ! なにあの結末! Nice boat

 さすがアカデミー賞美術賞かなんかを獲った作品だけあって、彼岸世界の住人達の造形が秀逸。迷宮の番人パンは、羊系クリーチャーデザインの最高峰。これは怖い! しかも息とか臭そうだ!
 羊系クリーチャーといわれて僕らがまず先に思い浮かべるのは、カリフォルニア州ベンチュラのアリソン渓谷で1925年頃よりしばしば目撃されている人型UMAの“ヒツジ男(英語ではゴートマン)”ですが、このUMAの正体はきっと人間界にさまよい出たところを目撃されたパンさんに違いない。パンさんの話によれば世界中に迷宮の入り口があるということだったので、つまりアリソン渓谷には未だに地底迷宮への入り口が残されているということか。それはすごい。UMAはいるわ地底洞窟はあるわで、これはもうアリソン渓谷を探険せざるをえない。永らく活動を休止している藤岡探検隊にはぜひカリフォルニアに赴いて頂かねば。カリフォルニア縦断1500キロ・アリソン渓谷の最深部に謎の羊男ゴートマンと地底魔法王国は実在した! ひげを剃ったら出発だ! ギャガーン!

 さらに、パンを越えるインパクトで見る者を恐怖のどん底に突き落とすクリーチャーが「第二の試練」の番人ペイルマン、通称「手の目」。こいつは、ふだんはテーブルに両手を置いて行儀よく着席しているんですが、侵入者がテーブルの上のぶどうをツマミ食いすると突如起動し、目玉のついたてのひらを顔に当てた「いないいないばぁ」的ポーズで侵入者を追いかけて食い殺すという失禁ものの悪行妖怪です。日本の妖怪・手の目は基本的に座頭のてのひらに目がついているだけで、少年にスリや強盗を働かせて鬼太郎にこらしめられる程度の小悪党妖怪ですが、スペイン版手の目は生理的嫌悪感バリバリの外見だし、妖精をとっつかまえては頭から食い千切ったりして野趣満点。手の目マジこえーな。これからは盲目の座頭を見つけても、食卓のぶどうをパクって食ったりしないようにしようっと。映画を見ることによって、少しずつ僕の魂が善の方向へと導かれてゆく。