『トム・ヤム・クン!』

 観た者すべての大脳新皮質を男子小学生レベルまで退行させ、その映画を観た人間はただ一人の例外もなく、お風呂あがりに脱衣所の鏡の前でヒジ打ちのポーズをキメずにはいられなかったといわれる栄光のムエタイ仏教説話映画『マッハ!!!!!』の感動が帰ってきた! もちろん主演は「素朴な人間兇器」トニー・ジャー!  これを観ずしてなんとする!? 第二次一億総男子小学生化計画ついに開始ッ!

 というわけで『トム・ヤム・クン』ですよ。みんな大好きムエタイ映画ですよ。僕はトニー・ジャーさんの映画が好きで好きでたまらないのですよ。彼の操るムエタイはもはやムエタイなんつう一国技のレベルをはるかに超え、かつて天才ブルース・リージークンドーを創始せずにはいられなかったように、「ムエ・パノム」なるジャー先輩オリジナルの大衆娯楽殺人術へと変態・進化・先鋭化。ただひたすら狂ったようににヒジを撃ちまくり、フレームのはるか外から放つ超長距離射程の飛び膝蹴りはあらゆる障害を破壊し尽くし、両腕に構えた武器は超巨大象骨トンファー! また、前作と比べるとエグい関節攻撃が大幅増加しており、実戦格闘技「ムエ・パノム」進化の過程をここに見た! こらもうかっこいい! とてもかっこいいので、ここを観ている良い子のお友だちは、お父さんかお母さんに頼んで今すぐ映画館に連れて行ってもらおう! そして学校でムエ・パノムの秘技を実践し、いじめられっ子はいじめっ子を、いじめっ子はいじめられっ子をそれぞれぶちのめしてみよう! そのあとのことは責任もたないけど、ぶちのめしている瞬間はきっと気持ちいいぞう!

 作品の粗筋は超かんたんで、「盗まれたゾウを取り返す」。やあ、これは超かんたんだ。ぼくでもりかいできるぞ。だれだって、自分のあいするぞうがぬすまれたりしたら、とてもあたまにきて、わるもののてからかわいそうなぞうをすくいだしてやろうとおもうもの。トニー・ジャーさんはぞうをこよなくあいするタイ人なので、なおさらのことそうおもうのだろうね。
 ジャーさんのせりふも『女囚さそり』の松島ナミなみにすくなくって、「ゾウを返せ!」と「ゾウはどこだ!」くらいなもの。これまた超かんたんだぞ。かんたんなストーリーのおかげで、脳みそがうまい棒みたいにカスカスなぼくやきみたちでも安心してトニーさんのかっこいいアクションにひたすら集中できるというすんぽうなのさ。そう。おもしろいえいがはばかのためにある! おもしろいえいがはばかのためにある! おもしろいえいがは、ばかの、ばかのためにあるんだ!