今回も私、鉄仮面が映画感想ブログを担当させていただく。ご了承されたい。

 今回のセレクトは九蔵に任せた。文化的娯楽からは最も縁遠い場所に立っているような反っ歯の老せむし男は、その外見とは裏腹に実は映画通なのである。その証拠に、『男達の挽歌』『修羅雪姫』『狂い咲きサンダーロード』『ゆきゆきて、神軍』等々、彼に促されるまま観た映画はどれも傑作・名作ぞろいだった。故に私はこの老翁の映画選別眼に全幅の信頼を置いている。しかし、そんな彼のセレクトであっても首をかしげることの多いジャンルがある。それはコメディ映画である。今回『オースティン・パワーズ・ゴールドメンバー』を観終わって、コメディに限っては絶対的評価が絶対的にありえないことを絶対的に再確認した。

 つまらなくはない。面白いのかもしれない。多少は笑ったような気もする。しかし、どのシーンで笑ったかということを、鑑賞後数日を経た今、思い出そうとしても全く思い出せないのだ。唯一覚えているのは「私が嫌いなものは二つ。他国の文化をバカにするものと……オランダ人だ!」という台詞くらいである。
 私の頭蓋がまだ鉄仮面で覆われていなかった遥か昔の遠い記憶によれば、テレビではドリフターズというコント集団が世間の耳目を集めていたように思う。私はこのドリフターズという集団のコントが大好きで、毎度おなじみの展開と力任せなオチを見ては喜んでいたものだ。ちょうどその頃、裏番組では『おれたちひょうきん族』という番組をやっていて、友人の中にはこちらのほうが面白い、という者もいた。あのドリフよりも面白いコントなど観たら私のような笑い上戸は窒息死するのではないか、と心配しながら恐る恐る件の番組を観たことがあるが、期待に反してまったく面白くなかった。土曜日8時のドリフという至福の時間を妨害するために友が企んだ謀略ではないだろうか、と怪しむほどにつまらなかった。
 満場一致で高い評価を得る映画はたしかに存在するだろう。しかしこと「笑い」を主題にした映画に関しては、いつの時代も意見が分かれるにちがいない。コメディ映画というのはつくづく難しいジャンルである。残念ながら、『オースティン・パワーズ』は私にとっての「ひょうきん族」であったようだ。(鉄仮面)