『UFO少年アブドラジャン』(幕下)

UFO少年アブドラジャン [DVD]

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 ウズベキスタンの農村にヤカンみたいなUFO飛来! そして墜落! 山に芝刈りに来ていたおじさんは中から出てきた玉のような男の子をアブドラジャンと名づけ家に連れ帰ったところ、隠し子と勘違いされておぱさんに怒られました! 超おこられちゃって超マイッタ! といったかんじのハートフルSFロシア民話。くそう、本作といい『キン・ザ・ザ』といい『妖婆 死棺の呪い』といい、ソ連映画を観れば観るほど今はなき旧ソ連への憧憬が増すばかりじゃないか! 時空を超えて旧ソ連に亡命しちゃいたいよ僕はもう!

 この映画を一言で表すならば「のどか」。ふつう、宇宙人が地球人とコンタクトするっつったら人類史上まれにみる大イベントじゃないですか。滅多にない。ギター侍が面白いネタを言う、くらいにレアなこと。イコールゼロに近い。だもんで地球側では祭りの空気を敏感に察知した矢追純一やら韮澤潤一郎やらカゼッタ岡やら山本譲二やらミッキー・カーチスやらが大地震がくる前の野生動物のごとくとつぜんソワソワし出したり、聖地ロズウェルではナゾの発行物体が先月比500%増で目撃されたりといった、これから始まる大イベントの前座、小規模な露払いイベントが先にあったりするものなのですが、本作にいたっては前フリがほとんどありません。UFOがゲリラ的にフワフワ飛んできてゲリラ的にドカンと墜落。UFOの第一発見者バザルバイさんも電波的資質ゼロなためどう頑張っても話が大きくならない。緑の血を流してへたばっている宇宙人に向かって「なんだお前、ちんちんないのか」とはなにごとか。その後「僕は完全生物だからちんちんはないんだよー」「そうか。かわいそうだな、よしお前は今日からおれの息子だ」「父さん!」といった禅問答のごとき不可解なやりとりがあり、結局、せっかくの地球的大イベントを家庭の中に収めてしまうウズベキスタン人。現代劇のクセして中身は『まんが日本むかしばなし』なみののどかさです。ふつう桃から子どもとか出てきたら、ぜってーヤバいからお上に届けたりするじゃん! だって桃だぜ!? 果物だぜ!? スイーツだぜ!? スイーツん中から哺乳類出てきたんだぜ!? それをお前ら、なに育ててんの!? みたいなかんじ。いみじくも現代が舞台なのに、果たしてこんなことでいいのだろうか。

 いちばん好きなシーンはアブドラジャンが父さんのためにニセ金を作ってあげるシーンです。そんじょそこらのグレイ以上に進んだテクノロジーを持っているアブドラジャンはお金の偽造も思うがまま。驚いたバザルバイさんが「もっと作れるか? もっと大きい額!」と気色ばみつつ尋ねると「もちろんだよ父さん!」とアブドラジャン。果たして「ほらできたー!」と取り出したのはどでかいサイズの特大硬貨。なんかもうすごいベタベタではあるのですが、僕はシーンの面白さというよりも、このシーンを観て大きな笑いに包まれたであろうウズベキスタンの劇場ののどかな光景を想起してホクホクしてしまいました。いいよなあ、のどか大国ウズベキスタン