『カニバル・カンフー/燃えよ!食人拳』


 なんつうタイトルなんでしょうか。「食人拳」って一体!? 古今東西、実在・虚構の別を問わず様々な拳法の名前を目にしてきたけれど、倫理上問題のある拳法名はさすがに初めてだよ!
 しかも邦題のみならず、中国語の原題は『地獄無門』、英語タイトルは『We're going to eat you』と、いずれもびみょうなタイトル。『We're going to eat you』は当世風に訳すと『いま、喰いにいきます』みたいなかんじでしょうか。うーん、こりゃひどい。中・日・英、そろいもそろってタイトル三重苦だ。彦摩呂ならばここで「これって……タイトル界のヘレン・ケラーやん!」などととってつけたような強引なコメントをすること請け合いです。

 既にタイトルだけでお腹いっぱい大満足な本作なのですが、どっこい中身もすごかった。
 中国のどこかに村人全員が人肉グルメというしょうもない魔境があり、その村に迷いこんだ人は謎のひょっとこマスクをかぶった屠殺集団にステーシーのごとくバラバラに解体されてしまうというのだから趣味の悪さも相当なもの。そんな魔境とはつゆ知らず、大泥棒ローレックスを追って特別捜査官“999”が村へとやってくるのだが……といったかんじのストーリー。「やってくるのだが……」などと勿体ぶってみせるまでもなく、喰って喰われて殺して殺されるだけのしょうもない話です(=面白い)。さっすがツイ・ハーク

 とりわけ悪趣味だったのが、村に住んでるオカマのあつかい。90年代に世間を騒がせた「野人の子供」映像なみにフリークな外観の巨大オカマが出てきて、主人公999に色目を使ったり強引に迫ったりするわけなのですが、999はそのオカマを殺し、屠殺場で解体し、その肉をおとりに使って村人(人肉好き)の気をそらし村からの脱出を試みます。……って、なんかすごいなあ。人間って生き延びるためならなんでもするんだね。ミスターカーメンの吸血ミイラ化攻撃をかわすため罪もないレフェリーを身代わりにした正義超人ブロッケンJr.のようだよ。この世に普遍的な正義など存在しないことを改めて知りました。