『七変化狸御殿』

 アクション、ホラー、SF、サスペンス等々、映画にはいろいろなジャンルが存在しますが、いくらなんでもこんなジャンルがあるのは日本だけ、という頭のおかしなカテゴリが存在します。それこそが「狸もの」「狸映画」と呼ばれる一連のミュージカル映画群。

・たぬきが主人公
・劇中、とつぜんたぬきが脈絡なく歌ったり踊ったりする
・全体的にまとまりがなく、登場たぬきの集中力が持続せず、平たくいえばばかっぽい

 これらの要素を兼ね備えた「狸もの」映画が40〜50年代になぜか大量生産され、『七変化狸御殿』もその中の一本。故・美空ひばりが主演しているという点で他のたぬき映画より一歩ぬきんでている感がありますが、しょせん狸映画。なんかもうどうしようもなくばかっぽいのです。ストーリーは以下。

 くるみの森でくるみ拾いに従事する奴隷たぬきのお花(美空ひばり)とぽん吉はかちかち国のお城にもぐりこんで歌いまくり踊りまくり、かくてお花は若君の鼓太郎さまに見初められる。
 一方、隣国に住むこうもりの国では雨が続き、雨に混じって降り注ぐ放射能のせいで滅亡の危機。しょうがねえや、ってんでかちかち国の天候をコントロールしているらしい「照々大明神」を手に入れようと画策。とりあえず鼓太郎を誘拐してはみたものの、お花とぽん吉の活躍によって計画頓挫。最後はたぬき勢とこうもり勢とが乱戦状態になるものの、突如現われたレインボーマンのごときいでたちの「森の神様」がこうもりたちをギタギタにし、ついでにくるみの森の親方たぬきもギタギタにし、たぬき界のアンシャン・レジーム瓦解。奴隷身分から開放されたお花は鼓太郎の妃におさまってハッピーエンド。

 とまあ、ストーリーからしてそうとうにおかしい。なにからなにまでそうとうにおかしい。これじゃああまりにこうもりがかわいそうすぎるし、途中でストーリーが次郎長の復讐譚にシフトしたりするし、とつぜん土蜘蛛が踊り始めたりするし、フランキー堺の役名は「ジャズ狸」だし、森の神様はターバン巻いてるし、そのうえインドのシヴァ神みたいに暴力的解決を旨としているし、その他もろもろオールつっこみ大進撃状態なのですが、むしろそこがすばらしい。東日本たぬき愛好会の会長兼CEOである僕としては、狸映画の面白さをあまねく世間に知らしめてゆくことを、今ここに改めて誓うのであった。みんな、もっと狸映画を観ようぜ!
 あ、でも、チャン・ツィーとオダギリジョーの『オペレッタ狸御殿』はかなり微妙だよ。